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一筋の光、降り注ぐ光。

人生はなかなかに試練が多くて。7回転んでも8回起き上がるために、私に力をくれたモノたちを記録します。

幸せを呼ぶ、小さなりんごのポマンダー

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四日ほど我が家に滞在した長女が昨日、帰って行った。今回の帰省は大学時代のサークルのイベント参加のためで、婿どのと子猫を残してやってきたのだった。

 

滞在中、家でのんびりできる時間も多かった彼女は、次女とじゃれ合ったり本を読んだり、ちょっとした工作でイヤリングを作ったりして、とてもくつろいでいた。その様子はあまりにも日常風景に溶け込んでおり、3月に彼女を送り出してからの月日は夢だったのではないか、と思えるほどだった。

 

私も長女の傍らで点描曼荼羅を描くなどしつつ他愛ないおしゃべりを楽しんで過ごし、三日目の朝には以前から興味のあったりんごのポマンダーを作ることにした。

 

小さな姫りんごの表面にクローブを刺していく。すると甘くスパイシーな香りが部屋中に広がった。作業中は長女と次女が交互に様子を見に来ては、「なんだか面白そう」とか「こうすると本当に腐らないの?」などと声を掛けていく。

 

母親の手が作り出していくものに好奇心いっぱいのまなざしを向ける。それは娘たちの小さかった頃にはよくあった光景で、ふと懐かしさに胸が熱くなる。

 

―― 子どもは3歳までに親孝行を済ませているんだよ。

 

昔、誰かに聞いたのだったか、何かで読んだのだったか忘れたが、私の中でずっと印象に残っている言葉である。子どもは神様からの預かりもので、たまたま親になれた私は、子育てを通して幸せをもらっているのだと。

 

ありがたいことに、我が家の子どもたちは3歳を過ぎても親孝行をしてくれているが、多分これは、子どもが大きくなって自分の思い通りにならなくなっても、それを残念がる気持ちを戒めるための言葉なのだろう。親となり、育てさせてもらったことに感謝せよ、と。

 

長女が赤ちゃんだった頃、夫はよくパステルなどで彼女の絵を描いていた。スヤスヤと眠る顔に「きれいなひとだね」と微笑みながら。夫が彼女を抱っこしてあやす姿を見ると、私は家事の手を止め、見とれてしまうのだった。これは本当のことなの?と。

 

私たちは彼女に夢中だった。この子が私たちのところに生まれてきてくれたことを奇跡のように感じ、神様に感謝していた。

 

おしゃべりができるようになれば、家に笑い声があふれるようになった。熱が出れば死んでしまうのではないかと心配し、元気が戻ると心から安心した。泣いたり笑ったり大忙しで、思えば本当に幸せな子育てだった。

 

そんな日々が、年を追うごとに遠くなっていく。娘たちの成長を喜びながらも、うっすらとした寂しさが少しずつ積み重なっていくのを感じる。それが親というものだろうか。私の両親にしても、もしかしたら同じ思いだったのかもしれない。

 

小さな小さな命を預かることができた、守り育てることができた。その喜びを忘れないようにしよう。あの幼い可愛らしい姿がこの胸にある限り、大人となった娘たちとの間にこの先たとえ何があっても、きっと乗り越えられる。そうして、彼女たちがずっと幸せでありますように、と祈らずにはいられない。

 

ところで、ポマンダーは魔除けや厄除けのお守りと言われている。りんごなどに香辛料をまぶしたもので、中世ヨーロッパでは邪気を払う香りのアクセサリーとして大流行したそうだ。背景にはペストなどの伝染病の存在があり、空気を清浄にしてくれる芳香を自らの周囲に漂わせておくことで病気を予防できると考えていた、という説もある。その後もクリスマスや新年の贈り物として定着し、今に至っているらしい。

 

作り方は簡単で、りんごやオレンジなどの小さな果物にスパイスのクローブを刺し込み、シナモンを中心とした何種類かのスパイスパウダーをまぶし、数日乾燥させれば出来上がり。クローブは抗菌力が強く、これを一面に刺すことによって、中の果物は腐らずきれいに萎びていくという。

 

作っている最中から良い香りが漂い、乾いた後も数か月から1年以上、ほのかな香りが楽しめるそうだ。現在、寝室で乾燥中だが、確かにその前を通るたびに良い香りがする。消臭効果や防虫効果も期待できるとのこと。昔の人が、病気を遠ざけてくれる「幸福のお守り」として大切に考えていたのも、わかる気がする。

 

インターネットで画像を検索すると、クローブの刺し方が密なものとまばらなものとあったが、私は萩尾エリ子さんの単行本『香りの扉、草の椅子』にあった作り方を参考に、小さな姫りんごにびっしりと隙間なく刺した。30g用意したクローブは1個のりんごで全て使い切ってしまい、今回できたのはひとつだけ。

 

それでも初めて作ったポマンダーである。出来上がりが何とも楽しみだ。クリスマスにはリボンをかけて飾ろうか。家族や友だち、大切な人たちの幸せを願いながら、今日も良い香りのするお守りを眺めている。