一筋の光、降り注ぐ光。

人生はなかなかに試練が多くて。7回転んでも8回起き上がるために、私に力をくれたモノたちを記録します。

<当ブログではアフィリエイト広告を利用しています>


虎にマーブルチョコレート

f:id:tsukikana:20190127220401j:plain

 

遠く離れて暮らす老親問題。最近、雑誌や書籍の広告などでよく見かけるテーマだ。多くの人が抱えている問題なのかな。それとも自分が気にしていることだから、目に飛び込んでくるのだろうか。

 

私と弟も、そろそろ今後のことを話し合うべき時期だねと思いつつ先回しにしていたところ、ついに主に父の要望で小さな家族会議をすることになり、先日、実家に集合した。

 

やはりテーマがテーマなので、楽しい帰省ではなく、はっきり言って気が重かった。

 

かかりつけ医や病歴を訊き、健康保険証、障がい者手帳や年金手帳、通帳などの保管場所を尋ねる、くらいはまだ良いが、どんな最期の迎え方がしたいか、脳死状態での経管栄養や人工呼吸での延命措置を望むか、危篤時は誰に知らせてほしいかなど、「そのとき」を意識せざるを得ない話になってくると、気分が悪くなってきた。

 

私が作っていった簡単なレジュメには、その先に「先立たれたとき」の話もある。両親のどちらかが先に逝ったとき、残された者として自宅にひとりで住みたいか、子と同居したいか、他の手段を望むか、という話だ。そこまでは、当日に聞き取らなくても良いと思っていた。考えておいてね、という項目だったし、そういう表現もしてあった。

 

淡々と真面目に答えたりメモを取ったりする母。なるべく明るいムードで事を進めようとする弟。しかし、この集まりを一番強く求めていた父の様子がどこか変だ。すぐに話を脱線させる。今日はここまでにしよう、みたいなニュアンスに持って行く。そして、努めて冷静でいようとしていた私は、実はすごくイライラしていた。

 

私だって気分が悪いよ。こんな話は楽しくないし、むしろ辛いし。でも、しておかなきゃいけないって、自分で言って私たちを集めたんでしょ。

 

しかし、諦めた。父は軽く感情障害を起こしているのかもしれない。そして多分、私も。やっぱり、一度に全部をテーブルに乗っけるのは、乱暴だったのだ。

 

その晩、お酒が入ると私と父は衝突した。久しぶりの親子喧嘩。86歳になっても、あんなに大きな声で怒鳴れるんだね。そして私も、いいトシしてまあ・・・

 

私は自分の中に一匹の虎がいることを知っている。それを飼い慣らし飼い慣らし生きてきた。穏やかな人間でいたかった。しかし、胸の奥に潜むその虎の存在が、自分が弱ったときに支えにもなってくれたのは確かだ。

 

その虎が暴れた。私の抑えを振り払って、父に吠えた。そしてその虎は、他ならぬ父譲りなのだ。思春期の頃のように取っ組み合いこそしなかったけれど、かなりの暴言を吐いた・・・と思う。

 

やってしまったな。疲労感だけが残り、もうこれはどうしようもないのだと、自分に言い聞かせる。自分の中にある、ずっと抑え込んできた粗野で荒ぶる性質が、思いがけず表出してしまったことにショックを受け、脱力している。虎は・・・奥の方でシュンとしている。時々、まだちょっと唸りながら。

 


「お前はマーブルチョコが好きだったなあ」

 

昔、私と娘たちとコンビニに行ったとき、父が私にそう言ったことがある。孫娘たちにお菓子を買ってあげようとしているときだ。

 

「そうなんだ。私はマーブルチョコが好きだったんだ」

 

小粒でカラフルでツヤツヤしている。可愛いし、なんとなく夢がある・・・マーブルチョコレートのことは確かに好きだわ、私。

 

それから時々、自分のためにマーブルチョコを買ってきた。父が目を細めて、幼い私を語ってくれた顔を思い出して。

 


自分に孫ができてわかったことがある。人は「子どもより孫の方がずっと可愛い」と言うけれど、そんなことはない。もちろん孫は可愛いけれど、私は孫娘を見るたび娘たちの幼い頃を思い出し、世界で一番可愛いのは我が娘たちだと思うのだ。

 

決して仲が悪いわけじゃなくて、むしろ昔から愛情が濃すぎるきらいがある、父と私。威張りん坊の昭和一桁生まれの父親に、若い頃の私はずいぶん反発したものだった。でも成人してからはずっと穏やかな関係が続いていたのにね。どうしちゃったんだろう。

 

衰えていく親を、帰省の度に見るのは切ない。そしてついには、お別れのときを意識しなければいけなくなったのかと、年齢を考えれば当たり前のことなのに動揺してしまう自分がいる。

 

あんなに強かったのに。
あんなに私にアドバイスしてくれたのに。
あんなに格好良くて自慢のお父さんだったのに。

 

そんな風に思ってしまってはいけないんだろうけど、小さな失望が積み重なっていくのが哀しい。それは、老いてなお威圧的な態度を取る父を攻撃してしまう、言い訳にはならないけど。もっと、大人の対応ができる私のはずだったのに。(本当かなあ)

 


家族会議第2弾は3月に行われる予定。ゆっくり作戦を練り、今度は慎重に虎をなだめておこうと思う。


そうだね、時々、マーブルチョコレートを与えながらね。