一筋の光、降り注ぐ光。

人生はなかなかに試練が多くて。7回転んでも8回起き上がるために、私に力をくれたモノたちを記録します。

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ときにはどこまでもセンチメンタルに

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肩こりと頭痛、それからめまいと不整脈に、いつも悩まされていた。2年前の私である。この年の手帳には、年明けから体調不良の記述がとても多い。そして、春頃からは仕事を辞めるかどうかでも悩んでいた。とにかく、くたびれきっていた。

 

当時、私も娘二人もシフトのある仕事をしており、休みが重なることは少なく、帰っても誰もいない夜が多かった。忙しいのに、寂しい。確か、そんな毎日だったと思う。

 

夕暮れから夜にかけて、暗くなっていく部屋の中でひとりでよく聴いていたのは、ピアノが綺麗なジャズ。ビル・エヴァンスも好きだったが、私の一番のお気に入りはキース・ジャレットのアルバム『The Melody At Night,With You』で、毎日聴いても飽きることはなかった。

 

報われることの少ない、心が折れることばかりが続く仕事。眠れないほどの不整脈と食欲不振。毎日がブルーだった私にとって、ウイスキーなどを片手にキースの知的で優しい旋律に身をあずけるひとときは、かけがえのないものだった。叙情豊かなピアノの音色に導かれ、冷たく静かな悲しみに浸れる時間が大切だった。明るく元気な音楽なんて、聴きたくなかったのだ。

 

悲しいからこそ、端正な悲しみの世界に身を置くことで、とてもなぐさめられる、そんなときがある。たっぷりと、とことんセンチメンタルになることで、その後、また少し前に進めそうな気がする。そういう気持ちのときに寄り添ってほしい音楽は、そんなにたくさんはない。

 

『The Melody At Night,With You』はいつ、どんな経緯で買ったのだったか。本当によくぞ私のそばにいてくれた、と思わずにいられない。このアルバムの全ての曲が好きだが、中でも『My Wild Ilish Rose』は何とも可愛らしく、切なさと透明感が胸に迫り、知らぬ間に涙が出てくるほど私にとっては特別な曲だ。よく食事を作る手を止めて、目を閉じて聴き入ったものだった。

 

毎日毎日、あの頃は本当によく聴いていた。よく「聞いていた」ものと言えば、毎朝時計代わりにつけていたあるテレビ番組のテーマソングがあったが、こちらは今また耳にするとあの頃の辛さがよみがえり、不快になる。思い出すから聞きたくないと、強く思う。キースの方は、今も変わらず何度でも聴きたいと思うのだから不思議だ。あるいは朝と夕方の違いなのか、音楽と記憶の関係も奥が深そうだ。

 

その後私は体調を崩し退職。手術や転職をし、うつを発症するというちょっと悲惨な時期を過ごす。重なるときは重なるものだ。そういう「お年頃」だと思い、受け入れるしかないだろう。今は、すっかり回復したとは言い切れないものの、あの頃のようなめまいや不整脈はなくなった。あちこち不具合は起こるけれど「あの頃よりはまし」だと思っている。

 

私を助けてくれた『The Melody At Night,With You』は、近頃「Google Play Music」で聴くことが多い。定額の音楽聴き放題サービスということだが、このアルバムは3500万曲あるという同サービスのリストになかったため、手元のCDをPCに取り込んでアップロードした。定額配信だけでなく、既に持っている曲は5万曲までクラウドに保存できるらしい。実に便利な世の中になったものだ。

 

青春の頃にはいつも音楽が身近にあった。いつからか、だんだんと疎遠になってしまったようだ。しかし音楽定額配信サービスのおかげで、若いときほどではないにしろ、ここのところよく音楽をかけるようになっている。ただし、夕暮れ時に聴きたくなるのは、やっぱりキースのこのアルバムなのである。今は、悲しみのお供としてでなく。