・・・自分時間を愉しむのに必要なのは、日常を面白がる精神・・・
これは、こぐれひでこさんが何かの雑誌で言っていたことば。
・・・空気や風、明るさ、本の中で過ごす時間が変わる・・・
これは、文字組みについてブックデザイナーの祖父江慎さんが語っていたことば。
引き出しの整理をしていたら、一冊のノートが出てきた。多分、20年近く前に買って使い始めたもので、10年分くらいのメモや走り書きがある。当時発信していたメールマガジンのネタ帳的な部分もあったが、気になったことば、特にポジティブで感じの良いことばを、集中的に列挙してあるページが続いていた。それを見て、ああ、このノートは一生捨てられないな、と思ったのだった。
冒頭のように、誰の言葉かを書き留めてあるものもあれば、山高ければ裾野広し、とか「できないこと」を考えるのではなく「できること」を見つけていく、えもいわれぬ香りの光芒を放っている、などと、目に留まったことばや言い回しを、ただ箇条書きに並べているだけのものもある。
・・・微笑みと花と愛をあなたに・・・
これは、歌の歌詞の一節。今もときどき、胸の中を流れる曲だ。調べたら、naomi & goroの『BEAUTIFUL LOVE』というナンバーだった。
どうも自分で思いついたらしいことばもある。「悲しいできごとは短い小説にしてしまおう」「昨日を終わらせて今日を始めよう!」なんて、どんなシチュエーションのときに走り書きしたのだろうかと、ちょっと可笑しくなる。
ネガティブなことばもあった。弁解に終始した、とか、語るに落ちる、とか、青天井の交際費とか。書く仕事をしていたから、どこかで使ってやろうと思ってメモしたのかな。ネガティブだけどちょっと楽しい響きもある。やはり「おや?」と気になって、拾っておきたくなったのだろう。
実は、このようなことばたちを、自分の過去の手帳の中にも見つけた。どうやら私のクセらしい。新聞や雑誌、本などを読んでいて、あるいは人と話していて、気になることば、特に素敵だなと思ったことばを放っておけないタチなのだ。小さい子がきれいな石を拾ってポケットに入れて帰るのと同じである。
このことばたちはしかし、ただメモ同様にあちこち書き散らされていては可哀想だ。せっかく気に入って抜き書きしても、活かされなくてはつまらない。ふと、自分専用の辞書のようにまとめてみようか、と思いついた。どんなふうに編集しよう。いったいいくつぐらい集めたのかも気になるところだ。ちょっとしたコレクターだな、と楽しくなってきた。
心惹かれる素敵なことばたち、良いことばたちに触れていると、気持ちが晴れてくる。自分で感じるものがあって集めたものだから尚更だ。生き方や考え方の指南をしてくれるようなことばも多く、ここのところ閉じてしまいがちだった心に効いてくる。
キラリと輝くことばたちは良いイメージを集め、年月を重ねるほどに奥深いコレクションになっていく予感もする。多分、私はこれからもずっと、集めていくのだろう。
今度、「素敵なことば収集家」という肩書で新しく名刺を作ろうかな、などと思う。どういう人に手渡したくなるんだろうと想像していたら、また楽しくなってきた。