
奈良へ行こうか・・・
そんな言葉がこぼれたのは、10月中旬。NHKの「あさイチ」を観ていたときだった。
秋の奈良の大人旅特集。グルメや景色などいろいろ楽しかったのだけど、中でも一番印象的だったのが、正倉院の宝物デザインの紹介。店舗で販売されているお菓子のパッケージや文具にあしらわれたその「天平文様」を目にした瞬間、私は心を奪われてしまった。実は以前から、伝統文様や吉祥文様にはちょっと関心があったのだ。
この放送は多分、年に一度、秋に奈良国立博物館で開催される「正倉院展」にタイミングを合わせていたのだと思う。そちらも観覧できたら、より素敵なことはきっと間違いないだろう。でもそれよりも、街歩き中ふと立ち寄ったお店で素敵な文様に出会えてしまう、というところが私には何より魅力だった。それだけでも十分、心満たされそうで。
奈良なら、あっちもこっちもと欲張らなければ、我が家から日帰りで遊びに行ける距離だ。お寺を巡る旅、というのではなく、気軽にお散歩がてら天平文様を見つけて楽しむのもいいな♪なんて。
ただ、10月はスケジュール的に厳しかったので、11月のどこかで夫とふたりで行こうかと、この段階ではぼんやり考えていた。そんな頃…。関西に住む長女が「話を聞いてほしい」と連絡してきたのだった。
夫と私と彼女の3人でビデオ通話。子育てや仕事の悩みなどで苦しんでいて、時に涙を浮かべながら話をする長女なのだった。妻でも母でもない、ひとりの娘として、お父さんお母さんと過ごす時間が、もうそろそろほしいよ、というようなことを長女が言ったとき、この子を抱きしめたい、ゆっくり甘えさせてあげたいと、心から思った。
その時間、是非作ろうよ!
という話になってからは、早かった。
昔の、あの頃の家族4人に戻って、久々に旅をしようか。
ひとつ、お泊りもしよう!
それなら、奈良はどう?
近々行きたいと思ってたし、奈良はちょうど中間地点でどちらからもそう遠くない。何かあってもすぐに飛んで帰れるのでは?
もちろん、不安材料も多かった。
長女の3人の幼い娘たちを婿どのに預けて、ということになる。
孫娘たちにとって、ママなしの夜は初めてのことだ。
パパだって、子どもたちのお世話をそんなに長時間ひとりでみるのは初めて。
大丈夫かな・・・
お天気はどうだろう。寒くないかな。
インフルエンザも大流行してるし、関係者全員が健康でその日を迎えられるだろうか・・・
心配はいろいろあったし、また、実際に出発前に婿どののご友人に突然の悲しい出来事があり、みんなで旅を延期すべきか悩んだが、その当事者である婿どのが長女を気持ちよく送り出してくれたので、先日無事、旅の計画を実現することができた。彼には本当に感謝している。
当日は、快晴。素晴らしいドライブ日和だった。
ひとり暮らしをしている次女をピックアップして、一路、奈良へ。お昼頃、法隆寺駅近くで、電車で来た長女と合流できた。
まずは私の希望を叶えてくれるということで、クルマを置いて、法隆寺近くまで歩く。目指すは、あさイチで紹介されていた「祥楽」というお店だ。
カフェ併設のお土産ショップなのだが、品物のひとつひとつがすごくお洒落で、ずっと見ていたくなるほど素敵。正倉院文様が彩る奈良の上質和スイーツ「大和し美し」シリーズを始め、お目当てのお菓子をたっぷり時間をかけて選んだ。娘たちもそれぞれたくさん、お土産を購入していた。
せっかくなので、松並木の参道を歩いて隣の法隆寺へ。その後、山菜うどんや柿の葉寿司の昼食をとったり、レトロなカフェで可愛らしいワッフルをいただいたり。

クルマに戻るまでも、ずっと笑いながらおしゃべりしている娘ふたり。ニコニコ嬉しそうな夫。本当に、あの頃の家族に戻ったみたいだ。
長女が結婚して10年が過ぎた。親も友だちもいない初めての土地で、弱音も吐かずよく頑張ってきたと思う。婿どのは長女を大切にしてくれるけれど、とにかく仕事が忙しい。ほぼワンオペの育児が続く毎日は、特に双子が生まれてからはどれほど大変だったことか。
私にしても、10年ぶりにわが胸に戻ってきた「うちの娘」であり、愛おしさもひとしおだった。いや、もちろんずっと私たちの娘なんだけどね。ギュッとハグするとき、彼女の夫や子どもたちがそばにいるのといないのとでは、心のあり様がまるで違ったのだ。彼女が生まれたときから家を出ていく日までの、幸せで懐かしい日々が思い出される。
こんな日が来るなんてね。
これは、婿どのからの優しい贈り物だね。
クルマに戻り、お宿へ向かう。道は結構、混んでいて、ゆっくり走りながら奈良の町並みや田畑の向こうの山々を眺める。白い月が浮かんでいた。
チェックインして荷ほどきし、いざ、「ならまち」散策へ。そしてまたまた、私のお目当てを優先してもらい、近鉄奈良駅にほど近い「活版工房 丹」を目指す。
ここでも素晴らしい天平文様の数々に、目を奪われた。「正倉院文様御朱印帳」など、可愛らしくも格調高い、本当に美しいデザインの商品が並ぶ。活版印刷による箔押しのポストカードなど、いくつか自分用のお土産を買ったけど、予算があったらいくらでも買い物をしてしまいそうだった。

すっかり夕闇に包まれて、空気も冷たくなってきた。ちょっと寄れたら、と思っていた奈良公園は諦めようか。といいつつ、近づいて少しだけ、鹿に触れてきた。
さあ、飲みに行こう!
その号令が、長女をこんなにも喜ばせることができるとは。
子どもたちを置いて飲みに行く、なんてことも初めてなのだ。
次女が言っていた。お姉ちゃん、歩きながら何回も何回も「楽しい♪」って、小さい声で叫んでたんだよ、と。
ギュウギュウとおしくらまんじゅうしながら、4人で歩いた「東向商店街」や「小西さくら通り」。可愛くて洒落ていてどこか懐かしい雰囲気のお店がたくさん立ち並ぶ、素敵な繁華街だった。
居酒屋を2軒はしごし、上機嫌でお宿に戻る道すがら、見上げた月は冴えて輝いていた。昼間見えた白い月は、こんなに綺麗なハーフムーンだったんだね。
お宿は一棟貸しのいわゆる民泊。夫が見つけてくれたそこは、清潔感があり、綺麗で内装が楽しい。お風呂が広々としていて快適だったなあ。3つあるベッドルームも居心地が良くて、しばらく皆で住みたいほどだった。
お宿でもワインを飲みながらのおしゃべりが続く。とても疲れていて眠いのに、まだ寝たくない。みんな、気持ちは同じだった。ああ、時間が足りない~!
翌朝も快晴。
チェックアウト後、また奈良公園にちょっとだけ立ち寄ろうということになった。それにしても、地図で見た奈良公園の広いこと!これは、ここを目的地として次回また来るべきだな。
実はこの日、当初は奈良公園まで婿どのがチビッコたちを連れて長女を迎えに来る、という計画だった。そこで皆で遊んでから、お別れしようね、と。でも、予定は変わった。婿どのは夕方からお通夜に行かなくてはならない。
長女を家まで送り届けることになったので、できるだけ早く出発したかった。なので、鹿との触れ合いもごくごく短時間ね。それでも「ああ、奈良に来たんだなあ」という気持ちになれた。

カフェでコーヒーをテイクアウトし、クルマに戻る。予定は変わったけれど、孫娘たちの待つ家に向かうのはやっぱり楽しみだ。ただ、長女と過ごす「懐かしのチーム」の時間が終わろうとしているのは、ちょっとだけ寂しかったな。
11月の終わり。本当に日が短くて、お昼頃には夕方のような光の加減になってしまう。
あの家で3時間ほど過ごしただろうか。2階の孫娘たちの部屋で、彼女たちとたくさん遊んだ。
子ども部屋らしく模様替えしていて、楽しい日々が垣間見えた。子猫が2匹、増えていた。この家も、少しずつ変化し成長しているんだなあ、などとしみじみ思いながら、皆の幸せを願ったのだった。
今回のロングドライブの大半を、次女が担ってくれた。ずっとペーパードライバーだったのを、去年あたりから練習し始めたのだけど、運転、上手になったなと嬉しく思う。レンタカーやシェアカーでの練習だとなかなか上達しないのでは、と考えていた私。でも、彼女を見ているといろいろ大丈夫なんだと、いつでも、いつからでも、トライすることが大事なんだと、勇気づけられる。
そんな次女が、疲れと寒さからか、昨日、熱を出したらしい。今朝、クリニックで検査して、インフルでもコロナでもないことがわかり一安心しているが、ほんと、楽しいことも疲れるから、体には十分気をつけてほしい。私も気をつけたいと思う。
あっという間に、師走・・・
毎年のことだけど、驚いてしまう。そして焦るような気持ちになってしまう。おまけになんと、寒波も来ている。クラクラしそうだ。
でも落ち着いて、機嫌よく過ごしたい。深呼吸しよう。
今月も予定が目白押しだが、疲れたら休む、を忘れずにね。
ところで。
不思議なのだけど、お土産で買った天平文様を見ていると、穏やかで華やかな気分になってくる。何故だろう。
この文様のこと、もう少し深く知りたくなってきた(*^^*)

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