知らない町を歩くのは面白い。
ただ歩いているだけでも面白いが、気になった脇道に入ってみるのはさらにワクワクする。
こういう、脇に入った細道のことを路地と言い、もっと奥に入り込んだ場所を路地裏と呼ぶらしい。横丁とは、路地が主に民家の間にある小道なのに対し、飲み屋さんなど店舗が並んでいる小道に使われる呼び方のようだ。
細い路地や横丁があると、つい足を踏み入れたくなってしまうのは、私、昔から。迷子になるかもしれないという思いは、不安よりも期待の方が大きかったりする。
鎌倉でも京都でも飛騨高山でも、近場では有松でも、ふと気が向いて横道に入り込んだ。そしてそこで見た景色が、有名観光スポットよりも記憶に刻まれているのは、単に私がアマノジャクだからだろうか。
そう、これまでは、ふと裏路地や横丁に入り込んでいたのだった。しかし、今回は違った。その横丁に迷い込んでみたくて、行く先を選んだのだ。
横浜の異国情緒あふれるローズガーデンや、キラキラした夜景を見た後で、夫と私は東京に移動した。
✻前回の記事です↓
短い旅の最終日、時間はほんの少ししかない。今度東京へ行ったら、あそこにも行きたい、ここにも行きたいと、きりがないほど候補を挙げていたのだけど、いくつかに絞らなくてはならなかった。
そのひとつが、ここ。
まだ訪れたことのない町。迷路のように入り組んだ路地空間、情緒豊かな横丁があると聞く町。
神楽坂は、どうしても一度、歩いてみたかった。
JR飯田橋駅に降り立ち、神楽坂下からメインストリートを上る。平日なのに、かなりの人通りだ。早く路地に迷い込みたい私。笑
まずは、有名な芸者小道(小路)を目指す。小道なのに有名って、考えたら面白いね。ただ、熱海湯階段、熱海坂など別名もいろいろあるらしい。正式名称でないところがまた、謎めいていていいな。
芸者小道は、見番横丁と小栗通りを結ぶ、細く短い坂道で、そのほとんどが階段だった。表通りの賑わいとはガラリ変わって、ひっそりと静かな佇まい。
階段を下った先に「熱海湯」という銭湯があり、ここでお座敷に出る前の芸者さんがお湯を使ったことから名付けられた小道らしい。
この階段を上り下りする芸者さんたちを想像してみる。いろいろな物語があったんだろうな。新緑が爽やかな5月の日中には、あまり似合わない想像かも?
階段上の見番横丁は、芸者衆の手配や稽古を行う「見番」が沿道にあることから名付けられたとのことだが、芸者を取りまとめる事務所や三味線の稽古場が今もあるのだそう。お洒落なレストランも目立つ住宅街の雰囲気だけど、ここで誇りを持って花街の粋を今に伝えているのだろう。
かくれんぼ横丁という、可愛らしい名前の道があると聞いていて、是非そこも歩いてみたかった。何故、かくれんぼ?
どうやら、お忍びで遊びに来た要人を後ろからつけてきたのに、ひょいと横に入られると行方がわからなくなってしまった、ということで名付けられたらしい。
純和風の高級料亭などが軒を連ねる昔ながらの花街の風情。どんな人が“お忍びで”遊びに来たんだろう。その人をつけてきた人とは、どんな関係だったのか?黒板塀は知っている?空想は果てしなく増幅する。笑
それから、神楽坂界隈で最も古い道(鎌倉時代からの鎌倉古道)という、兵庫横丁へ。兵庫とは兵器庫のこと。かつて(戦国時代)は武器商人の町だったのだ。
狭い路地だが、古い石畳の風情がなんとも美しい。冒頭の写真はここ。小説家や映画監督などに愛され執筆の場所となった旅館、和可菜も兵庫横丁にある。料亭や古民家リノベの和食店、イタリアンなどもあり、どこも素敵。グルメ目的で行っても期待以上のスポットだと思う。
神楽坂界隈は、坂が多い。武蔵野台地の端部に位置していて、起伏に富む地形なのだという。それで、こういう立体的な路地が作られたのだろう。
入り組んで先を見通せない路地。私は昼間に歩いたから、迷子にならずに済んだけど、もしも夜だったら?
ちょっと神秘的な雰囲気は、神楽坂特有のものなのだろう。料亭や旅館の軒先の行灯に火が灯れば、そこはかなり怪しくミステリアスな通りになるに違いない。なんて素敵な!
神楽坂。
もしも夜に歩いていたら、この日のうちに帰れなくなったかもね。それほど、誘惑されるお店が多すぎた。
お高そうなレストランも惹かれるけど、庶民的なビストロやお食事処も素敵。古民家リノベどころか、古アパートリノベのお店も多く、それぞれ個性的だ。こんな所に?という場所にも、気になってしまう飲み屋さんがある。まさに隠れ家。ゆったりバーでグラスを傾けたりしたら、時がたつのも忘れそう。
それから・・・
この町は、プチ・パリという呼び方もされると聞いた。
近くにフランス語インターナショナルスクールの東京国際フランス学園や、アンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)というフランス文化の発信拠点がある。そのためフレンチカフェやレストランが点在し、フランス人の往来も多い。そして古い石畳、坂の途中の小さな階段がパリの街並みに似ていることも、そう呼ばれる由来のひとつらしい。
料亭、旅館、花柳界、花街。そんな和のイメージが強かった神楽坂だけど、歩いてみるとフランスを筆頭にインターナショナルの色合いも濃いことに気づく。
ああ、やはり、東京。そんじょそこらの横丁のある町とは違うのね。なーんて、なんだかちょっと癪な気もするなー。笑
さて。神楽坂を駆け足で楽しんだ後、夫と私はそのまま早稲田まで歩いた。東京さくらトラム(都電荒川線)に乗ることも、東京でやってみたいことのひとつだったのだ。
途中、早稲田大学のシンボル的存在の名建築、大隈講堂の前を通る。大学の創設者、大隈重信へのリスペクトから1927年に建設された、ゴシックとロマネスクが入り混ざった折衷主義建築。国の重要文化財だ。
時計塔のある外観を、しばし眺める。すーっと直線的だけど威圧感はさほどなく、王冠をかぶった優しい王様、という印象。どこか親しみやすささえ感じた。
夫がキャンパスにどんどん入って行きそうなので、ちょっとちょっと、と袖をつかむ。その辺までなら大丈夫だよ、と彼。いやいや、この違和感、というか場違い感といったら。学生さん、ごめんなさい。笑
なるほど、これが早稲田大学。初めて来た。
そして。早稲田駅から乗った東京さくらトラムは、昔、乗ったことがあるようなないような。とてもうろ覚えな路面電車だ。
小さな可愛い電車が民家の軒先をかすめるようにして走る、と聞いた。どの辺りなんだろう。そういうの、好きなのだ。ちょっとノスタルジックで映画っぽくて。そう、江ノ電も大好き。
細ーい電車が早稲田の駅に入ってきたときは、おお!と声が出てしまった。なんとコンパクトな電車。1両編成ということもあり、バスみたいに見えてしまう。
狭い車両はすぐに満員になった。こんなに交通機関の発達した東京でも、しっかり都民の足として利用されているらしい。一乗車につき170円という安さも素敵だね。
あまり時間がないので、大塚駅で下車。ここでJRに乗り換えるのだ。でも、大塚の駅前の広場で、ちょっと足が止まる。薔薇が、見事だった。
さくらトラム沿線には、いくつかの薔薇のきれいなスポットがあるそうで、大塚駅から向原駅までの線路沿いもそのひとつ。本当は荒川の方まで乗って行きたかったけど、ここで薔薇が見られたので、今回はよしとしよう!
横浜、そして東京。こんなふうに短い旅を楽しんだ私たち夫婦。最後は月島でもんじゃ焼きをいただき、帰路についた。
3日間、毎日約2万歩を歩き、さすがに疲れた。足がもう、大変。笑
楽しかったけれど、今度はもっと、ゆっくり旅をしたい。ひとつの場所にじっくり時間をかけるように計画しなくては、とつくづく思う私だった。からだがしんどくても、つい欲張って頑張ってしまう、悪い癖だ。
付き合って歩かされた夫も気の毒に。行先もほぼ私の趣味で決めさせてもらったし。彼には彼の、行ってみたい場所があったはずなのにね。妻がワガママで申し訳ない。
5月は私たちの結婚記念日のある月。今回の旅は、34回目の記念日をお祝いするためでもあった。いろいろあったけど、34年。感慨深い。35回目もどうかありますように!笑
(ワガママでフラれないように気をつけなくては)
それにしても、5月ももう後半。
今年も薔薇をたっぷり見られたのは嬉しかったが、なんだかちょっと寂しい。
私はこれまで、5月は美しく完璧な月だとずっと信じてきた。でもここ数年、天気や気温の変動が激しくなってきて、驚くことが多い。真夏のようになったり、何か月も季節を逆戻りしたかのようになったり、とても疲れるのだ。今年も「これぞ5月!」と呼べるようなパーフェクトな日は、少なかった気がする。それが、寂しい。
それでもやはり、5月が一番好きだ。「らしさ」を求めて天気予報に一喜一憂してるけど、そんなの逆にもったいないよね。
あまり予定を詰め込みすぎず、体調管理をしっかりして、元気に機嫌よく過ごしたい。毎日を大切に、愛おしんで生きていこう。風薫る5月も、そうでない5月も。他の月も。
✻旅から帰ってもう10日以上になりますが、前回の記事の続きを書きました。慌しかったけど、深く思い出に残る旅になったと思います(*^^*)
天候が不安定だったり、各地で地震も頻発してたり、なんとなく不穏ですね。皆様、どうぞご安全に。どうぞお健やかでありますように・・・。