久し振りに刺しゅう針を持った。刺したのは、ずっと気になっていたatsumiさんのデザインだ。正確に言うと、atsumiさんのデザインを真似してみたもの。
NHKの「すてきにハンドメイド」で作品を見て、是非この図案を刺してみたい!と思ってから約半年。インスタグラムで、arsumiさん始め多くの刺しゅう作家さんや愛好家の方たちの作品を拝見し、刺激をいただき続け、意欲だけは高まっていた私だ。実行できないまま時間ばかりが過ぎていったのだけど……。
ついに先日、録画しておいた番組を再生し、よし!と実行に移す。なーんて大層な感じだが、小さなアルファベットひとつを刺し、ブローチに仕立てただけ。それでも、やっぱり刺しゅうは楽しく、こうして実行できたということは喜ばしい。
ところで今回、録画したものを一時停止したり巻き戻したりして、自分でも意外なほど熱心に見た。これまでは作家さんの図案集から選び、トレースし、出来上がり写真を見ながら刺していたのだが、作業する手元までアップでゆっくり見せてもらえるというのは、こんなにもわかりやすいものなのね。テレビってすごい。録画再生で確認できるというメリットを、目いっぱい活かせた感じ。録っておいて良かった。
ワークショップやカルチャー教室で教えてもらうのであったら、多分、私はたくさん先生に質問してしまうタイプの生徒だろう。思えば「これは、こうでいいのかな?」とつぶやき「ま、いいんじゃないかな」と自分に返事しながら、でもどこか釈然としないまま、いつも進めてきた気がする。本の情報量の限界を知る。
先生について何かを習う、ということを随分していない。病気をして人と会うのがちょっと怖くなってからかな。特に初対面の人とコミュニケーションをとらなければならない、というのが、仕事以外だと苦痛に感じるようになってしまった。以前はわりと、得意分野だったのだけどね、そういうの。楽しかったし。
病気は治ったとはいえ、昔のようには戻れていないなあ、と思い至り、ふと寂しさを感じる。でも、一人でいること自体は別に寂しくはないし、やることもいろいろあり忙しくしているから、普段は自分の対人スキルの変化についてあまり考えることはしない。
ただ、テレビ番組などで手芸や料理の先生を見ていて、この先生の話し方や雰囲気は好きだなあとか、こういう先生の教室だったらちょっと行ってみたいなあとか、リラックスして楽しめるかもしれないなあとか、思わないこともない。もう少し、なのかもしれない。
テレビで見たatsumiさんも穏やかな雰囲気が漂う方で、作品とともにお人柄も魅力的なのだろうな、と思った。ステッチのコツを教えてくれるその声も、落ち着いていて優しく、心地よかった。
さて、肝心の作品だ。番組では、俳優の宮崎あおいさんがatsumiさんの刺しゅうの大ファンだということで、コメントを寄せており、「色使いが特別」「抜群にデザインが可愛い」と絶賛していた。確かに、甘くラブリーに思われがちな刺しゅうのイメージがガラッと変わる作風だと思う。特にエンブレムなどは本当にかっこいい。
今回の作品は初心者でもトライしやすい、シンプルなアルファベット。ステッチも「コーチング・ステッチ」「コーチドトレリス・ステッチ」「フレンチノット・ステッチ」「サテン・ステッチ」の4つだけ。チャーミングなデザインで、妙に心惹かれる。
刺し方の基本の部分では、最初に玉止めを作って糸端を短く切ってから挿し始める、というところが、私には新鮮だった。糸端は10センチほど残しておいて、後で針に通して糸始末をする、というのが常識だと思っていたから。
そうか、常識にとらわれなくていいんだ。
その気づきが、番組を見ての一番の収穫だったかもしれない。ここ数年の私の大好きワードである「自由」が、心の水面下からプカッと浮かび上がり光り輝いた。こうあるべき、こうしなくてはいけない、という思いに、意外と根深く絡めとられていたのではないかな、私って。刺しゅうの刺し始め、に限らず。
また、今回は手元に図案がなかったので、画面を見ながら自分でデザインを描き取るということをした。斜線の角度とか、文字の大きさに対する線の太さのバランスとか、かなりアバウトだ。自分が「こんな感じがいい」と思う感覚を優先してみたのだが、そういうのも気持ちが良かった。
デザインはあくまでも参考にして、自分の直感や好みを作品づくりに反映させていくという楽しさ。正解を追い求め過ぎない気楽さ。なんだか、ひとつ前進できたような気がする。気のせいかな?
さて。小さな作品がひとつ生まれると、すぐに次を作りたくなる私。そうしてまた、取り掛かりまでに時を要してしまうのかもしれないけど。
桜井一恵さん、青木和子さん、シライカズミさん、atsumiさんと、これまで好きな作家さんの図案を楽しんできた。手元の図案集の中には刺してみたいものがまだたくさんある。でもそろそろ、自分で自由にデザインし、刺してみるのもいいかな、とも思い始めている私。
・・・「自由」って、ちょっと勇気がいるけどね。